土曜日のちょうど真夜中過ぎ、私の携帯電話が鳴ります。16歳のステファニーは、私とDBTを始めて三か月ほどになります。
「最悪よ」
彼女は涙ながらに私に訴えます。
「自傷したくてたまらないの。そうすれば気分がよくなることはわかっているんですもの。
私は本当にもう耐えられないんです。彼氏のことは大嫌い。アイツは正真正銘の大馬鹿野郎だわ。あの馬鹿が私に何をしたのか、先生は信じられないと思う」
「ひどく動揺しているようだね。君の彼氏はきっと本当に無神経なんだろうね、一つ教えてくれるかな、君は私に電話する前にどんなスキルを試したの?」
「対人関係有効性スキルを試したわ。でも、アイツはただ私を払い除けただけ。私は自分が言いたいことを詳しく書き出したりもしたの、でも通じないの。私、本当に自傷したい。アイツなんか大嫌い」
彼女は電話口ですすり泣きながら言いました。
「私、どうしたらいいのかわからないわ」
「そうだね、君は自傷する前に私に電話をした、それは正しいことをしたんだよ。よくやったね!今、一番大事なことは、この危機的状況をうまくやり過ごすことだ。前にうまくいったのは、どんなスキルだった?」
私は尋ねました。
「知らないわ!私は、すごく頭にきているんです。もうどうなったっていいのよ。アイツはー」
私は言葉を挟みました。
「君は私に助けを求めために電話をくれたんだよね。私は君に手を貸すことがでいる。しかしそれには、今すぐに君の彼氏について話すことじゃない。君にとって一番効果がある、自分を慰めるスキルについて、セッションの中で話をしたことがあったね。今、試してみるのによさそうなのはどれ?」
「うーん、そうね、たぶんヘッドフォンをつけて音楽を聞くことならできるんじゃないかしら、特にアップビートの曲なら」
ステファニーは答えました。
「いいでしょう。では、そのあとは何を試せるだろう?」
「シャワーを浴びて、フランネルのパジャマを着ることならできるかも。私、携帯の電源を切ろうかと思うわ。だって今夜はもう彼に話をするつもりはないもの、きっと私、自傷しちゃうから。」
彼女はそう言い、明らかに落ち着き始めていました。
「見事だね!君はこれ以上事態を悪くさせずに厄介な感情をやり過ごせるよう、どうしたら自分を助けることができるか考え始めているんだよ。素晴らしい!今夜、君にとって結局どうなったのか、ぜひ私にメールで知らせてほしいな」
「うん、まかせといて。ありがとう。先生。私、メッセージを入れておくわね」
ステファニーは言いました。
DBTの最も効果的な側面の一つは、セッションとセッションの間におけるスキル指導です。それがなかったら、ステファニーやその他の多くの子どもたちは自傷してしまっていたでしょう。
その後、あとでステファニーは私にメールをくれ、自分がどのように対処したのかー携帯電話の電源を切って、音楽を聴き、眠る前にシャワーを浴びたことを伝えてくれました。
DBTでは、青年期の子どもは、自分ターゲット行動としたものに関わりそうになったら、セラピストに昼夜を問わず連絡を取ることを求められます。まずは、危機をうまく乗り切るために子どもたちは自分で新しいスキルを試します。それがうまくいかなかったということは場合にセラピストに電話をかけるのです。治療のごく初期で、彼らがDBTスキルをまだ試したことがない段階では、スキルを試すことが彼らにとって重要なのです。電話をかけるということは、電話による心理療法という意味ではありません。その内容は、状況の素早い評価(必要なら自殺評価も含まれる)と、その後のスキル指導に限定されます。
次回は、「ターゲット行動に焦点を当てる」を紹介します。
「自傷行為救出ガイドブック ―弁証法的行動療法に基づく援助―」 マイケル・ホランダー著
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