BPDをもつ人にとっては、行動の段階的変化を許容して、ゆっくりと目標や期待を達成できるように学習することが重要です。私たちは遅い変化を「シェーピング(shaping)」と呼びます。定義上、シェーピングとは目標に段階的に接近していくことです。鍵になるのは、変化を段階的に増やし、各ステップを補強することです。とはいえ、自分自身を罰して新しい行動をさせる代わりに、ゆっくりした変化を認めて、新しい行動ができたら自分自身に褒美を与えるように、BPDをもつ人を説得することが容易であるとは言えません。鍵となるのは、承認できる小さなステップを発見することです。シンディーは、唯一大切なのは学校に通いA評価を取ることだと信じていて、自分にはこれを達成する能力がないと思い込んでいることが、授業に登録することさえも阻んでいます。けれども、ある日彼女はネットに接続して、大学のサイトに目をとめます。彼女の友人や親せきはその努力を強化するという手段で、彼女に力を貸せるでしょう。「それはすごくいいことだよ。一人一人が持ち寄る多種多様なことにいったん目を向け始めると、大学にワクワクするようになったことを覚えているよ」「大学のウェブサイトって素晴らしいわよね。関心のある領域を本当に掘り下げられるし、印刷された大学案内からは得られそうもない詳細な情報が手に入るのだから」などと言ってもよさそうです。ポイントとなるのは、目標に焦点を当てずに、今発生していることだけに集中することです。ですから、「このステップの達成からシンディーが何を得られるか」という点を強化すれば、彼女に自己非承認を思いとどまらせる役に立つでしょう。これは、シンディーの目標やガレージをきれいにするといった目標のように、行為志向型の目標で実行する方が他の行動で実行するよりも容易です。特に自己非承認では、BPDをもつ人が自己非承認をしていないときか、自己非承認の最中で立ち止まったときに注目して、強化するようにしてもよいでしょう。
以下に挙げるのは、従うべきガイドラインです。
〇あなたの愛する人の目標を決して否定しないように。
愛する人がそれらの目標を達成できる見込みはとてもないとわかっていても、自分はその人が目標を達成できるかどうか告げる立場にはないと自分に言いましょう。あなたの愛する人の努力が失敗に終わったときの後始末をあなたが押し付けられている場合には、これは本当に難しいことでしょう。その人に「夢を見ているだけだ」と伝えたい衝動に抵抗するためには、焦点を当てられるような小さな事柄を発見することです。もしその人が永遠に薬物とは縁を切ると望み、あなたはどうしても無理だろうと信じているのであれば、今日は薬物を控えられることはわかっていると伝えましょう。もしその人がソフトウェア会社の社長になりたがっているのなら、その人がコンピューターを楽しんでいる点を承認しましょう。あなたが真にその目標を達成できると思わないなら、嘘はつかないように。承認できるほかの何かを発見しましょう。
〇目標を多くの小さな達成可能な目標へと分割するように、あなたの愛する人を導きましょう。
小さな、達成の可能性がありそうなステップは成功を生み出します。また、小さなステップは振り返って、再考察し、再編成する時間も与えてくれます。もしあなたの愛する人がより大きな目標に向けて段階的な進歩をし始めれば、そこでの小さな成功によって築かれた自身が武器となり、本能的リアクション、つまりどのような小さな失敗もその人自身の「大失敗」を反映しているというリアクションから身を守ってくれるのです。ステップとステップの間で一呼吸置くゆとりがあれば、物事を考え直す余裕も生まれます。「私はこれはうまくやれたけど、あれは楽しめていない(あるいは苦労している)し、私の最終目的地に到達するためには、あれもうまくこなさなければならないのだ」というふうに。もっと良いことに、その人は新しい最終目標を示唆するような、何か自分が本当にうまくできることを発見するかもしれません。その間、あなたは愛する人が人生で望むことに対して非承認的にならずに済むのです。
欠席しすぎたために高校を中退してしまったクライアントがいました。その後、彼女の飲酒と自傷は増え、12年間も強い自殺傾向がありました。治療の間に、彼女は医学部に行きたいと思うようになりました。高校卒業資格を持たない、長年制御不能状態にあった30歳の女性が実際に医学部を卒業するという話に私は懐疑的でしたが、彼女には伝えませんでした。代わりに、彼女と一緒に彼女が医学部に入るために必要な事柄全てをリストアップしました。私たちはそれを小さな、達成可能な目標に分割し、彼女はスタートを切りました。さらに小さな目標が必要だと認識したので、週ごとの学習目標も立てました。それから週間目標の達成に対して、彼女が自分に褒美を与えるために各週末に何をするかのスケジュールも立てました。
もちろん、彼女にはギブアップしたくなる瞬間がありました。彼女は私に、自分はバカで、頭がおかしくて、自分には無理だというのでした。私は彼女に、彼女にはそれができるということを事実としてはわからないけれど、彼女の力を信じていると伝えました。私たちの誰にでも、学校で自分はあまり賢くないと感じる瞬間があるものだと言い、彼女を安心させるようにしました。最終的に、彼女は静脈切開術を学ぶ学校に行き、医療職に就いています。彼女は時間と共に、医学部は現実的な選択肢ではないと認識したのです。けれども彼女は、自己非承認をせずに感情を許容する方法と、小さく、達成可能で強化可能な目標をもつということを真に学んだのでした。
次回は「あなたの愛する人が事実を確認するのを手伝いましょう」を紹介します。
「境界性パーソナリティ障害をもつ人と良い関係を築くコツ」 シャーリ・Y・マニング著
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